その企業の名前は、備前発条株式会社。工場は男性的で画一的なイメージが根強い中、この会社ではたくさんの女性が活躍し、実にいろんな方々が個性を発揮しているようです。
「髪色が自由なことに惹かれて入社した」なんて話もありながら、着実に社員の方々が成長していく。そんな備前発条は一体どんな企業なのか、覗いてみましょう。

★山根社長
金属部品メーカーである備前発条の3代目社長。5年前に就任以来、培ってきた事業を引き継ぎつつ、ダイバーシティーやSDGs推進などさまざまな新しい取り組みを牽引する。
★脇坂さん
総務部に所属。困りごとを聞いたり頼られたりするのがモチベーション。入社4年目で、医療事務として病院で働いていたこともある。
★藤井さん
工場の現場で副班長を務める(公開時点で、班長に昇進されました!)。元保育士で、入社5年目。SDGsチームでは子ども向けの本の寄付活動もメインで行う。
★景山くん
岡山県内の大学に在学中の大学生。NPO法人だっぴのインターン生として10月から参加、企業取材に挑戦中。
Index
「ばね」を核に、自動車などの部品を開発・製造
- 今日はよろしくお願いします!早速ですが、備前発条さんはどんな会社なのですか?
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山根社長
備前発条は主に自動車などの金属部品の開発製造を行っている会社です。
私達の生み出す部品・技術のコアは創業から一貫して「ばね」にあります。「ばね」は電動ではないからくり技術なので、当社の製品もシンプルでエコロジカルだと高い評価をいただいています。
- なるほど!ばねを使う車の部品というと、どんなものがあるのでしょう。
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山根社長
たとえば自動車のシートの骨組みですとか、エンジンなどの内燃機関の振動を抑える防振部品などですね。
一般のみなさんに名前が知られているのは、大手自動車メーカーさんですが、その下にはTier1という一次下請けと、そのTier1メーカーさんに部品を納品するTier2という二次下請けの製造会社があるんです。
日本発条、倉敷化工、丸五ゴム工業といったTier1メーカーさんから委託外注を受けて、さきほど挙げたような部品を納品しています。
- 委託外注?
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山根社長
委託外注とは「この図面通りに部品を製造してほしい」と図面と一緒に製造発注することです。だから、委託外注のお仕事はオーダー通りに作る仕事なんです。
でも、私達は自社開発品の提案もしていて、そちらも大きな強みにもなっています。
- 自社開発品とは?
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山根社長
自社開発品は、お客様にどんなニーズがあるのかを自社で調査して「こんな製品はどうでしょう」と新たに開発・設計をして提案するものです。
▲備前発条さんの公式HP-開発製品ラインナップ掲載画像 現在会社全体における自社開発品の売上割合は30%。この比率をもっと上げていきたいと思っています。製品としては、自動車シートのヘッドレスト、オットマンなどがあります。最近ではモータースポーツシートのトップメーカー・ブリッド(株)さんにアームレストを提供し始めました。インテリアなどの他産業にも新規開拓を進めています。
- おおー!企画や設計もしているんですね。
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山根社長
▲プレス機を操作中。 そうですね。弊社では製造ラインの「プレス」「曲げ」「溶接」「組み立て」「塗装」など、すべてを一貫生産できる体制を整えていますので、コストを抑えて品質の安定した、「一番良いもの作りの仕方」をお客様に提案することができます。
- なるほど〜。
備前発条から地域、グローバルに広がる「協奏」
- 山根社長が大事にしていることはどんなことですか?
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山根社長
私が3代目の社長になって掲げた経営理念は「協奏」です。たとえば人材のダイバーシティを一層進めていて、現在は女性が40%、外国籍の方が25%、障がい者の方が4.1%と、本当にいろんな方に、働いてもらっています。それぞれの方が自分らしさを存分に発揮してくださっていますよ。
今日同席してくれている藤井さんや脇坂さんなど、若手の活躍も著しいんです。そうした人材の資格取得の支援などの教育にも力を入れていて「どんどん行っておいで!」と言えるようにしています。
- そうなんですね。協奏といえば、備前発条さんは「協奏祭」という秋祭りをされていますよね?今年、家族が参加させてもらったみたいです(笑)。
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山根社長
▲協奏祭、お近くにお住いの方はぜひ♪ ありがとうございます!射的や綿菓子も楽しんでもらえましたかね(笑)?
文化活動や地域貢献にも力を入れたいと思っていて、このお祭りもその一環なんです。
私達の会社がある場所は、市街化調整区域。周りが住宅街なんですよ。でも、弊社工場は24時間体制で動いています。そんな中でも、60年近くこの土地で事業をさせてもらえている。これって、地域の方々のご理解・ご協力がなければありえないことだと、私は思ってます。
なので、私達は地域の方に喜んでいただける企業として、地域への広がりを大切にしていきたいんです。
- ホームページを拝見したんですが、すごかったです。SDGsにも力を入れているんですよね。
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山根社長
■SDGsへの取り組み
https://www.bizen-hatsujo.co.jp/about_us/sdgs/見てくれてうれしいです。でも、SDGsを掲げるようになったのは3年前からなんです。お恥ずかしい話、その前までは勉強不足でよく知りませんでした。
これ、きっかけは当時2年生だった娘なんですよ。学校でSDGsのことを習ってきたみたいで、異常気象や森林火災などの世界各地で起こっていることを話してくれました。
でも、きっとそういう話を聞いて、ちょっと怖くなったんでしょうね。「お母さんがお仕事がんばってくれてるから、地球は大丈夫だよね?」って娘は言ったんです。私、それに本心から「大丈夫よ」って言ってあげられなかったんですよ。会社として娘が話した異常気象への具体的な手立てはできてなかったし、個人として意識もしてこなかったから。それで「子どもに大丈夫って言ってあげられないような大人じゃダメだ」と勉強を始め、社内にSDGsのチームも立ち上げて取り組みを始めたんです。
- そうだったんですね……!
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山根社長
はい。今はプラントのLPガスや自動車のガソリン、トラックの軽油などそれぞれのCO²排出パターンを分析して、2050年のカーボンニュートラルを目指した取り組みをしています。今の削減率は2019年比で134%。2025年の5割削減という目標も見えて来たかなというところです。
でも、これもSDGsチームのメンバーが自分らしく能力を発揮してくれているからです。削減のロードマップを作ってくれたのもすごい人で、今年4月からCO²フリーの再生可能エネルギーを使い始めたのも彼の提案なんですよ。
楽しく成長、製造業で働くお二人のキャリア / 元保育士、車の部品への興味から製造の世界へ
- 藤井さんはどんな理由で入社されたんですか?
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藤井
きっかけは、姉が勤めていたからです。当時は保育士を目指して勉強していたのですが、バイト帰りに姉を迎えにいった際、姉から会社の話を聞いてすごく楽しそうに話していて、「あ、楽しいんだな。いい会社なんだな」って感じたんです。もともと車に興味があって、車の部品がどうやって作られているのか知りたい、作ってみたいという気持ちもあって。それで保育士をしてから転職で備前発条に入社したんです。
- 保育と製造現場だと、結構開きがありますよね。
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藤井
実は高校卒業後の進路として就職も考えていたので、インターンシップで工場での作業を体験したことがあったんですよ。その時「楽しいな」「もくもく作業をするのもいいな」って思ってはいたんです。最初は作業者からスタートしましたが、やっぱり楽しかったです。
- 現在は作業現場で副班長、リーダーの役割を務めてらっしゃるんですよね。どんなお仕事をしているのですか?
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藤井
私の上司である班長が立てた生産計画通り、製造ラインの業務が回っているかの管理をしています。たとえば作業が遅れていないか、材料がなくなっていないか、問題は起きていないかなど、日々工場内をパトロールして確認しています。
- お仕事をする中で、どんなことをモチベーションにしていますか?
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藤井
1つ1つ出来ることが増えることですね。ちょうど今朝も、1つ増えました。
管理者としていいものが作れるようになるためには、設備関係のトラブルへの応急処置など、できた方がいいことがたくさんあります。今日は工場内で配線がちぎれたところがあったんです。もちろん設備をみてくださる技術さんがいるので、メンテナンスをお願いすることもできたんですが、一度やっているところを見ていたので、上司に「自分で直してみていいですか」とお願いしたんです。
- 技術さんにお任せしていてはダメなんですか?
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藤井
技術さんがお休みの日に同じことが起こったとき、「私できません」じゃ恥ずかしいと、私は思うからです。自分の立場とプライドがありますから。
上司は「やってごらん。失敗したら失敗しただよ」と言ってくれたので、チャレンジしてみました。ずっとそばで見ててくれて、時間をかけてやり終えた私に「お、出来たじゃん!」と声をかけてくれました。
- 素敵な上司の方ですね……。
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藤井
はい。社長も「失敗してもいいからやってごらん」って言ってくれるので、似ていますね。
工場というのは男性のイメージがまだまだ強いので、女性の私でもできるという姿を見せたいんですよね。最近ではフォークリフトの免許やガスの受け入れの資格も取りました。フォークリフトに関しては、乗れるようになれば様々な業務に役立ちますし「女性だから乗れない」っていうのはカッコ悪いなとやっぱり思うんです。
作業者が困ったときに助けられる資格や業務をする上で必要な技術を、これからも1つ1つ身につけていきたいです。
- すごいです。きっとリーダーという立場は大変ですよね。
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藤井
▲現場での藤井さん そうですね、作業現場で不具合が出た場合に、すべて自分で判断してジャッジしていかないといけない立場です。何事にも「これはいい」「これはダメ」と答えられるようになっていかないといけません。
作業者時代に全ての生産ラインを経験していたわけではないので、知らないことも正直ありました。でも、他のラインを見に行って物のセットの仕方や設備の仕組みをちょっとずつ学んで、判断の理由を含めて少しずつ説明できるようになっていっています。
私のできることを増やして、その姿でもっともっと「この仕事やってみたい」と思う人を増やしたいなと思ってます。
- カッコイイです!
医療事務から未経験の製造現場へ
- 脇坂さんはどうして備前発条への入社を決めたのですか?
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脇坂
実は……私は藤井さんに呼んでもらって入社したんです。高校のときの同級生で、LINEでずっと連絡を取り合う仲だったんですけど。前職は医療事務をしていて。そこを辞めようか悩んで相談していたら「うちの作業所、面白いよ」と誘ってくれたんです。
- 車に興味があったんですか?
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脇坂
脇坂さん:いや、全然分からなかったんですよ。工場を見学したときも「うわー、見たことない世界だな」って思いました。
一番の決め手は……髪の毛を染めていいことだったと思います(笑)。もっと自由にしたかったんですよね、まだ21歳でしたし。
藤井さん:あ、服装のドレスコードはあるんですよ。総務の服装も決まっているし、現場も安全管理上髪をくくったりする必要はあります。でも、それ以外は自由なんです。私もちょっとネイルしてます(笑)。
山根社長:脇坂さんはマツエクしてるよね。
藤井さん:私はまつげパーマです。
脇坂さん:(笑)。
病院の前にやった仕事も全部接客業だったんですよ。医療事務も、病院に来るいろんな方とずっとコミュニケーションをとり続ける仕事だったので、やり取りすることにちょっと疲れていたところもあったんです。だから「あまり人と喋らなくていい仕事をしたいな」と思って決めました。
結局、現場でいろんな方と話すことになったんですけど(笑)でも、いろんな方と関わるうちに改めて人と話すこと、関わることが好きだなと思いました。
- 今は現場を離れて総務をされているんですよね。どんな業務をしているんですか?
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脇坂
「購買」という購買品の納品書を入力する経理的な仕事、それから社内SDGs活動、そして海外の技能実習生のサポートをしています。
技能実習生はインドネシアからが多く、35名ほど受け入れていて、その受け入れ管理や彼女たちの生活指導はもちろん、困りごとなどを日々聞いています。
脇坂さん:そうですね。基本的には業務は日本語で進むので、まず日本語学習のサポートが必要です。それに、実習生は慣れない土地で共同生活をしているので、悩みも聴き取ってあげる必要があります。だから、総務部では入社後から溶接の試験を受けてもらうまでの間「交換日記」と漢字やひらがなプリントの「宿題添削」でやり取りを重ねています。
話は耳で、文字は目で、時には英語も交えたり翻訳機を使ったり、身振り手振りも使って日本語を覚えてもらっていっています。
山根社長:交換日記はすごいですよ、細かい困りごととか生活面の悩みも全部拾い上げて返信して。
脇坂さん:いつも褒めていただいて嬉しいです。交換日記は主に先輩がしてくださっていて問題や困り事などがあれば、私に声をかけていただき実習生と個人面談したりして細かくコミュニケーションをとるようにしています。
山根社長:同性で年も近いし、本当に仲がいいよね。
脇坂さん:でも、仲が良くて年が近いだけに難しいところもあります。キツく叱れない部分もあって。
特にインドネシアは年上・年下という関係に厳しいところが文化的にあるので、ちゃんとそういう部分には敬意を払ってコミュニケーションをとっています。
- 言語が違うのでコミュニケーションも難しいんじゃないですか?
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脇坂さん、山根社長
脇坂さん:そうですね。基本的には業務は日本語で進むので、まず本語学習のサポートが必要です。それに、実習生は慣れない土地で共同生活をしているので、悩みも聴き取ってあげる必要があります。だから、総務部では入社後から溶接の試験を受けてもらうまでの間「交換日記」と漢字やひらがなプリントの「宿題添削」でやり取りを重ねています。
話は耳で、文字は目で、時には英語も交えたり翻訳機を使ったり、身振り手振りも使って日本語を覚えてもらっていっています。
山根社長:交換日記はすごいですよ、細かい困りごととか生活面の悩みも全部拾い上げて返信して。
脇坂さん:いつも褒めていただいて嬉しいです。交換日記は主に先輩がしてくださっていて問題や困り事などがあれば、私に声をかけていただき実習生と個人面談したりして細かくコミュニケーションをとるようにしています。
山根社長:同性で年も近いし、本当に仲がいいよね。
脇坂さん:でも、仲が良くて年が近いだけに難しいところもあります。キツく叱れない部分もあって。
特にインドネシアは年上・年下という関係に厳しいところが文化的にあるので、ちゃんとそういう部分には敬意を払ってコミュニケーションをとっています。
- 総務の業務を通して、どんな成長を実感していますか?
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脇坂
これまで自分が関わることがなかった分野の知識量がすごく豊富になったと思います。
例えば、総務部では9月半ばから子育てと仕事の両立が図れるよう就業規則を見直し、お子さんの看護休暇や介護休暇の一部有給化を進めたり、「育児目的休暇」という休暇を新設しました。これにあたって育児介護休業法や関連する法律をたくさん調べ、社内アンケートなども行ったことで知識のレベルアップにつながった実感があります。
もちろん、極めているかと言われるとまだまだなんですが、もともと関われてなかったところに関わっていって、「調べて追究できるようになった」と感じているんです。
SDGsのチームにも入っていますが、今までは「これやって」と言われたことしかできなかったのが、自分からSDGsについてイチから調べて「こういう事例があるみたいです」と提案できるようになったんです。
▲脇坂さんのお仕事にはこんな場面も
- 言われたことをやるだけでなくて、提案ができるようになる。すごいですね。
-
脇坂
法律は常に変わっていくので、追っていくのは大変です。でも、会社としては必ず守っていかないといけません。上司や先輩と一緒に、それを調べて情報共有して、チームとして提案する。専門性というとイメージしづらいですが、備前発条の総務ではそんな力が日々磨かれているなと感じています。
それに、社内にはいろんな方がいるので、耳の聞こえない方、インドネシアの実習生、職人気質な方、フランクな雰囲気の中でもいろいろ考えて接するので、多様な人との接し方も学べていると思います。
備前発条からのエール「失敗してもいい、やりきってみて」
- 今日はありがとうございます、備前発条さんの明るく優しい雰囲気が伝わってきました。最後に、大学生・高校生へのメッセージを一人ずつお願いできますか?
-
山根社長、脇坂さん、藤井
山根社長:じゃあ私から。私は自分自身本当にたくさんの失敗をしてきていて。うまくいったことって、100個のうちの1つぐらいなんじゃないかと思うぐらいで。なので「失敗してもいい」と思っているんです。
大事にして欲しいのは、失敗してもいいからとにかく「やりきる」こと。やりきったうえでの失敗は、自分の経験値になるし、絶対無駄になりません。自分で決断して、やりきって、失敗しながら成長していってほしいです。
脇坂さん:私は……そうですね、「専門分野を勉強したから絶対コレをしなきゃ!」って、高校生や大学生は思いがちだと思うんです。でも、私はいろんな職場でいろんな経験をしてきたので思うんですが、別にそこに囚われる必要はないのかなって。
それに「コレを一生懸命頑張ろう」という“コレ”を見つけるのってなかなか難しいですよね。でも、1つ何か頑張れたら自信になるし、スキルアップになるから、いろんな経験をしていってほしいなと思います。最終的に自分に一番合うところが見つかっていくと思うので。
藤井さん:社長や脇坂さんの話にもつながりますが、私はやっぱり「チャレンジ」ですね。気になることがあったら、いろんなものに手を出してみていいんじゃないかなと思ってます。私は高校卒業後、進学も就職も気になったので工場のインターンにも行きましたし、友達の付き添いで美容関係の専門学校も見ました。
結局保育を学んでから保育士をして、今は工場でこうして仕事をしています。きっと失敗や成功ではなく、やったことに意味があると思うので、何でも挑戦してやってみてほしいです。そうしたものを糧に、今の私の仕事があるので。
ぜひ元気にチャレンジしてみてください!
- なんだかやる気が湧いてきました!今日は本当にありがとうございましたー!